草木

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草木は小さな集落である。

南西に穿つタチ沢の沢筋に沿って若干開けたる外は、ほぼ四方が山に囲まれた小さな集落だ。

かつては十六世帯が生活していたと聞くが、今では五世帯のみ。

なかでも県道から入ること約1㎞、林道のほぼ最深部に草庵(狸尚庵)はある。

二千坪ほどはあろうか、緩やかな傾斜地に、現在は三世帯のみが屋根を寄せ合うように生活している。

 

先日其処に埼玉県の或る航空会社が空撮写真を売り込みに来た。

一枚も売れなかったと記憶している。

何も二万円という金額ばかりが理由ではないのは明白だ。

山家暮らしは誇ることがないのである。

自分の家が映っていようがいまいが、関係ないのだ。

作物の生育は比べても、他人と自分を比べる意味が全くないのである。

偶然に生やした草木の根子のようなもので、何年も何年も其処に営々と生きるだけなのである。

私は・・・

「今の時代、グーグルアースやドローンというものがあるのに、何故二万円出して買わにゃならんのか」というのが理由であったが、・・・しばらくして、自分の断り文句の薄っぺらさに恥じた。

 

五十年余りの都会生活で私は消費ばかりを人と競ってきた気がする。

人より多くを消費すればするほど快適さを得られるのが都会生活であった。

 

今、三軒だけの草木の地で私自身にも小さな小さな根子が生え始めたことに無上の喜びを感じている。

 

“梅雨寒の山を低しと峪の底”

狸尚庵 亭主

草木」への2件のフィードバック

  1. こんにちは。私は70歳、静岡の街中で育ちました。休日で帰ってくる38歳息子と「ととの里」にヤマメ釣りに行きたくてページを開いたら「草木」の文字が目に飛び込んできました。私が安倍奥の山に登り始めた53年前の「登山ブーム」のころですが、静岡駅6時発の超満員の静鉄バスが赤水の立派な松をくぐると、しばらくで「草木」のバス停を過ぎます。「なんてさびしい名前だ。どんな集落なのか?」とずっと印象に残りました。それからの50年間、梅ヶ島線のバスに20数回は乗りましたが「草木」のバス停に一人の昇降者もありません。3年前の春思い立って軽自動車で草木のバス停から車道を最奥まで行き道端に停めさせてもらい大光山まで登りました。稜線はとてもいい山でした。降りてきたときに三軒のひっそりとしたたたずまいを見ています。なんと狸尚庵とは!看板を掛けてはいないでしょうが今度登るときにはご挨拶したいくらいです。山里に住むのは不自由を選ぶことです。冬の暮らしは特に大変です。偉いなー、と思います。どうかお元気で。

    • 西野 様
      コメントお寄せ頂き有難うございます。
      狸尚庵 亭主です。
      私も東京在住時から山歩きが好きで、高校時代からかれこれ40年以上奥多摩、奥秩父と厳冬期以外は通い続けてきました。今は生活自体が山の中にいるせいかこの2年間めっきり山への足は遠のいた感があります。
      しかし一移住者である私にとって梅ヶ島は何といっても何もないのが魅力です。梅ヶ島温泉を中心にして西から北へ、北から東へとぐるり馬蹄上に廻った稜線は箱庭を俯瞰するような楽しさがあり、東は富士、西は南アルプス南部の名峰達を間近にしての稜線歩きが正に安倍奥の魅力かと思います。
      新しいものは古いものから生まれるものと思えば、今あるものを大切にすべきと切に思うばかりです。
      またこちらへ来られる機会があれば是非お立ち寄りください。赤い車が止まっていれば拙宅(狸尚庵)に在宅しております。赤い車が無ければ「魚魚の里」に勤務しております。楽しみにお待ちしております。

      鑿鉋(のみかんな)ひかる八十八夜かな
      狸尚庵 亭主

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